Interview with Ian Anderson
不死鳥のごとく復活を遂げたザ・デザイナーズ・リパブリック。
創立者イアン・アンダーソンとの対話から見える、
デザインの歴史と未来
ザ・デザイナーズ・リパブリック(以下、TDR)は、1986年の7月14日、イングランドの工業都市シェフィールドで産声を上げたグラフィック・デザイン・スタジオである。

コンシューマリズム(消費者主権主義)を揶揄した皮肉たっぷりのロゴ・デザイン、ショッキングな配色センス、想像を絶する情報量とレイアウト、無機質なピクトグラム。そして、独特の反骨精神や政治的なステートメントを持つメッセージの数々は、それまでデザインに興味を抱かなかった多くの老若男女を振り向かせた。当時はコンピューターや新世代のゲーム・ハードなどの普及も手伝ってか、理路整然とした、どこか近未来的なグラフィックが好まれた時代でもある。同じく英国生まれにして、以前『ズーム・マガジン』にも登場してもらったジョン・ワーウィッカー率いる<Tomato>と共に、90年代以降のデザインのあり方を再定義した、重要なクリエイター集団の一つなのだ。

もっとも代表的な作品は、テクノ、エレクトロニカ、IDMといったシーンの立役者として有名な音楽レーベルこと<ワープ>との仕事。ロゴや各アーティストのアートワークは言うに及ばず、国内有数の巨大ダンス・イベントである<エレクトラグライド>のポスターや物販なども手がけており、レーベルが放つ世界観を見事に具現化した。静止画だけでなく、映像やウェブの分野にも積極的に進出。音楽以外にも、ファッション、広告、エンターテインメント……と活躍の場を広げ、いつしかコカ・コーラやマルボロをはじめとする大企業にも重宝される存在に。もしかすると、日本でも根強い人気を誇るレーシング・ゲーム『ワイプアウト』によって、知らず知らずのうちにTDRの作品に触れていた人もいるかもしれない。

しかし、TDRの創立者イアン・アンダーソンは、09年初頭にチームの解散、およびカンパニーの倒産を発表。そのニュースは、日本でも大きな衝撃として駆け巡った。ところが1年後、イアンが新会社「Return Power Shift Control Ltd」を立ち上げて、TDRの商標や知的財産権を買い戻す。創立日と同じ7月14日、不死鳥のごとく蘇った彼らは、復活第1弾としてオウテカの通算10作目『オーヴァーステップス』のアートワークを世に送り出した。とりわけ、時代錯誤とも受け取られかねないヴァイナルの豪華ボックス・セットは、TDRの“執念”さえ感じられる素晴らしい傑作だった。

そんなイアンが、この度ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で開催されたTDR展覧会のオープニングに併せて来日(会場のBGMは、なんとオウテカが未発表トラックを提供)。地元シェフィールドにこだわり続けてきた彼だが、「東京」だけは特別なのだろう。漢字、カタカナといった日本語のタイポグラフィを多用した過去の作品からも顕著なように、ジャパニメーション、ビデオゲーム、夜のネオン街など、日本文化の放つ猥雑なまでのエネルギーにインスパイアされたというTDR。かつて02年にはオンリー・ショップを出店していたこともあり、東京は第二の故郷とも呼べるのである(渋谷の喧騒に、『ブレードランナー』の世界を見出したとのエピソードも)。次のインタビューから、まもなく創立より四半世紀を迎えるTDRの、「今」を知ってもらえたら幸いである。
ーtext by Kohei Ueno
Ian Anderson / The Designers Republic Photo
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ひとつの時代を築いたデザイナー
Ian Anderson
The Designers Republic
デザイナーを始める前、幼少期から青年期にかけてはどんなものを見て、感じてきたのか。それと、自分がデザイナーとして生きていくと決意したキッカケをお聞かせください。
まずは音楽業界というとこから始まりました。幼少期からでいうと18歳までロンドンで育ち、その後にブライトンという結構新しい町に引っ越して、大学はシェフィールドに行った。シェフィールドへ行った理由はたくさんあって、まずあの土地は凄くインダストリアルな場所だった。更にいうと77年ごろに自分はパンク・バンドをやっていて当時はエレクトロニック・ミュージックが好きで、シェフィールドにはそういう自分が好きなミュージシャンがたくさんいたんだ。クラフトワークとかそういう音楽にハマっていて大好きだった。大学では哲学を勉強していて、それにも影響されたのかな‥、音楽業界への取っ掛かりがバンドのマネージメントをしたことだったのです。その前に、自分がやっているバンドがつまらないと思った時があって、ファンZINE(ファンに向けてのフリ―マガジン)をつくり始めた。フライヤーや制作物を作っていくうちにバンドとの接点を持つようになってPerson to personというマネージメント会社からABCというバンドのマネージメントをやらないかと声がかかってね。そのバンドと一緒に日本に来たときにYMOと一緒にショーをやったことがあったんだ。その時に、すごく日本にはまり始めてその後、マネージメントをしていくことも退屈になってきたのです。そしたら、色々なバンドからアートワークを作ってくれよと言われてね。アートワークの仕事が増えて、人のクリエイティビィティをサポートするマネージメントよりも、自分のアートをやることが楽しくなって。でもアートをやり始めたものの技術的に今までアートを勉強してきたわけじゃなかったから、独学でアートを勉強しつつそこから本格的に始めたんだ。
イアンさんは学校でデザインを学んだ経験があるわけでなく、独学でアートを勉強してきたんですね?驚きです。
小さい頃からアートは好きだった、ごく自然な形で感じていたこと。あとは<ブック・クラブ>という、一カ月ごとにクラブの仲間で本を交換し合って、その度に家に本が届くっていう伝統的なイギリスのクラブに僕のおばさんが凝っていて、その大量の本の中からたまに良かった本を自分にもくれて、でも7歳の僕はその本に全く興味がなかったんです。そうして、この本なら好きかもって渡してくれた一冊が“アンディ・ウォーホール”の本だった。当時はもちろんアンディー・ウォーホールって誰だかわからなくて、でもその絵が「凄いな!」って思ったことを凄く覚えているよ。自然とそういったものに刺激されたり影響されたりして育ったからずっとずっとアートには興味があったね。
デザインで自分にとってとても大切だと思うのは、作っている最中の楽しさと言うよりもデザイン自体が発する発言だったりとかデザインを通して何を伝えたいのかというアイディアの組み立て方が自分にとって大切なんだ。もちろん、どう見えるかも大切だけれど、何を発信しているかってことが重要だって感じてる。自分にとってアートってそういうものなのではないかと思います。
Ian Anderson / The Designers Republic Photo
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音楽とビジュアルの関係性
物とそれに届く人の間に入るのが僕。
こんな風に物事を考えるようにしています。
根底としてイアンさんは音楽を愛していて、それをビジュアル化する喜びを感じていると思います。一体どういうプロセスで音楽をビジュアルに変換していくのか、音とヴィジュアルとの関連性を聞かせてください。例えば、代表的なアートワークで<ワイプアウト、エイフェックス・ツィン、オウテカ、スーパーグラス>などがありますが‥。
音と映像の関係って凄くシンプルだと思うんです。というのは、心理学を勉強していたこともあったんですけど、やっぱり違うものを2つ組み合わせると脳とか頭って、それを一生懸命繋げるためにとても複雑な動きをするもので。でも、やっぱり音を聴いた時に素直に浮かぶ映像とか感覚があって、僕はそれを複雑にするよりも合わさる2つを素直に創り上げて行くことが多いんだ。だからきっと、その音を聴いた時にそこに在るものを引き出すっていうことが自分のプロセスなんだ。でも実はアートワークを作る時に関しては、もしかしてあんまり音を聞いていないのかも。やはり、このアートワークを何に近づけたいかって考えた時、アーティストが、この作品を作った時に彼らが何を感じていたかっていうことにアートワークをリンクさせたくて。だから、彼らがその時に感じていて、そのインスピレーションによって完成させられた作品に自分のアートワークをもう少し繋げたい。そこに戻りたいって思って、ジャケットのアートワークを作る時はそこにフォーカスしていますね。
音をそのままアウトプットするんじゃなくて、音を発している対象を一緒にアウトプットしている訳なんですね。
そうですね、アーティストの感情とかその時に何を感じていたかってことより、例えばアーティストが木にインスピレーションを感じてその作品を作ったとしたら、何で彼がその木に興味があったかっていうとこではなく、その木を自分自身も見て、感じること。そこから映像とかアートワークを作り上げる。こういうプロセスを自然に自分に持つことで、彼らがインスパイアされた気持ちと近いシナジーが大きく生まれる、そこがポイントですね。
“ミュージシャン対アーティスト”っていうよりは“人対人”でモノを作ってる訳ですね。
自分がどうして音楽から商業的なものまで色々と制作が出来るかというと、物を作る時、「誰に、何を、どう伝えたいか」っていうのを凄く考えるようにしています。例えばオウテカの作品も、もちろん彼らの音楽や彼らのインスピレーションも含めてアートワークを作ってるのですが。けれど凄く哲学的なところというか「“オウテカ”というアーティストのオーディエンスはどんな人達で、どういうものに刺さるのか」っていうところまで考えているんだ。物とそれに届く人の間に入るのが僕。こんな風に物事を考えるようにしています。他で例えると、オウテカを女装させてユニークにアートワークとして作ったとしたら、違うバンドだったらそれは面白いのかもしれないけれど、彼らのファンは凄くシリアスな人達が多いから絶対に届かない。だから彼らのインスピレーションも大切ではあるけれど、誰にどういう形で届くかってことを沢山考えて作っています。
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デザインの技法と表現
自分にとってデザインっていうのは
何か意味があるもの。
数々の作品のなかで印象的な要素として“テキスタイル”や“レタリング”、“ピクトグラム”などがありますが、あなたにとって、それらの技法はどういう意味をなしているのですか?
デザインと絵画の違いって、やはり絵画はそれを見てすごく感情的な何かが湧いてくる。でも自分にとってデザインっていうのは、広告と一緒で何か意味がある。広告っていうのは、それを作ることで商品を買って欲しいとかそういう意味合いがあるでしょう。自分のデザインもそれと同じメカニズムで、このデザインによって何かを発しているっていう考えのもと作っている。だから、今そうやって言ってくれたように手法がとても印象深かったっていうのは嬉しいコメントだね。これらを見て、何かを考えてくれてたり、そこに意味があったり。普通に素敵なアートだなってサラッと受け流すこともあると思うんですけど。それって実は、あんまり嬉しいことじゃなくて、それならあんまり良くないって言ってもらった方がいい。自分のアートには色んなレイヤーの意味があるから、それを一つ一つ深く考えてくれたり何かインパクトを受けてくれたり、逆に凄く嫌いだとかね。そういう何かしらのアクションが自分のデザインにとって意味があると思ってる。やっぱりこういう手法、それ一つだけに意味があるんじゃなくて、きっとそのアートを通して伝えたいことや特別に意味があったから過去にもたくさん使ってきているんだ。

そしてもうひとつ、何かを作る時にとっても大切にしているのが、分析して表現するっていうこと。だから僕の作品とかTDRの作品に凄くレイヤーが多いのは、例えばABCDという組みがあったとしたら、まずA→B→C→Dっていう風に並べてみる。でもじゃあBを今度縦にしてみたら、そうしたらAは変わるのか?とか。そういう分析と哲学が自分の中で混ざって、アートを組み立てている。そしてやっぱりここでも“何をどういう風に伝えたいか”を本当に深く分析してアートを作っていくのが重要だって思っていますね。
では日本語を使ったレタリングも多く見られますが、日本語を使うにあたり本来の文字の意味を意識しているのか?それとも全くの別の形からみているのか、教えてください。
自分は物事の原点に戻って、そこにどんな影響があったのかていう話をしたように、やっぱり人が何を見て、どう思い、何を考えたかっていうのを常に考えている。これは日本語で何て言ったらいいのかな‥“顧客”っていうのかな?僕は、購買層の考えていることを凄く大切にしているんだ。それを説明するとかなり深い話になりますがね、1980年代とか90年代に遡って考えるとウォークマンとかディスクマンみたいな日本から発信したものがあったでしょう。当時、東京のネオンとかって、将来の購買層の意欲を掻き立てるような文明や環境だったんです。意欲を持った人たちに刺さるようなものと言ったら“日本”だったというか。だから一つの理由として、そういうジェネレーションの人達に何かを届けるっていう。東京って言うアイコニックなものを引きだす一つのツールとして漢字とかカタカナを取り込むことを好んでしていましたね、哲学的な方です(笑)。これは一つの理由に過ぎなくて他にも色んな理由があるのですがね。
Ian Anderson / The Designers Republic Photo
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テクノロジーの変化、デザインの変化
デザインに日本語を盛り込むことで
「消費者主義」的な要素が出せると思ったんだ。
意味というよりは、当時日本にあった“魅力”を表現していたということですね。すごく興味深いですね。
『sci-fi(Science Fiction)』にすごく興味があって、『スター・トレック』とか『ブレードランナー』とかも大好きで。でも『スター・トレック』はどちらかというとあまり現実的ではない未来を描いている作品で、『ブレードランナー』は信じられる未来が描かれていて。その作品から「消費者主義」的な要素を感じたんだけど、“日本”って正にその通りの国だと思うんです。そこが僕のデザインに似ているんだ。すごく消費者に刺さるものを作るのが好きだから、なんか僕にとって“日本”はすごく「消費者主義」的な国と文化だから、デザインに日本語を盛り込むことで「消費者主義」的な要素が出せると思ったんだ。

あともう一つが、タイポグラフィーのコミュニケーション手段で、見て何かを感じるけど、実際には読めないものを目指したかった。だから日本人がこのデザインを見て感じることは違うと思うけど、英語圏の消費者にとっては、読めないけど何か明らかなメッセージのあるものを作りたかったのです。最初は自分たちだけしか分からないアルファベットをつくって、それでタイポグラフィーを作ろうと思ってたんだ。でも日本語という「消費者主義」が強い言語をタイポグラフィーにすることで、自分たちがダイレクトに伝えたいことが伝わると考えたわけです。
奥が深いですね、改めて作品を眺めていきたいです。最後の質問ですが、“21世紀”になって、車は空を飛ばなかったけれど、コミュニケーション手段は大きな変化を遂げてきたと思います。“デザイン”という存在はこの十数年でどんな変化を遂げてきたと思いますか?そして、今後は“デザイン”はどう変わっていくと思いますか?
テクノロジーの変化によって、デザインも変化するよね。20世紀に戻ってみても、いろんな技術が生まれることでデザインも変化してきたと思う。プリント機材とかウェブとか。コミュニケーションも時代によって変化するように、デザインもそうだと思います。デザインをヴィジュアルのコミュニケーションとして見た時(ただの形とかではなく)、例えば“牛”がデザインとして出てきた時、それはただの“牛”のデザインではなくすごく深い意味を持っている。英語という言語は時代によって大きく変化するけれど、デザインも同じ。そして、今の時代はその変化が本当に急激に起きる時代だと思う。だからデザインという「ビジュアルコミュニケーション」もすごく変化しているよね。でももし、どんな形で変化したとしても、それがメッセージである限り、人とのリンクの仕方は変わらないと思う。プリント、ウェブ、いろんな形でのビジュアル・コミュニケーションができたけど、人にメッセージを伝えているっいう意味には変わりないよね。一つ思うのは、「もうプリントの時代は終わった。今からはウェブだ」なんてよく聞くけど、僕はそれは信じていない。iPadを含めた、色んな電子機器が今すごく人気で便利だけど触って楽しめる「フィジカル」な商品を好む人も多いと思うしね。僕たちはやっぱりフィジカルな生き物だから、自分たちが「エネルギー化」するまでは絶対にフィジカルなものを求めると信じています。
そしてもし、デザインが今後どこにいくか知っていたら、僕は今すぐそれをやりたいな。
ーIntervied by Tsuyoshi Araki (at-scelta)
Ian Anderson / The Designers Republic Photo
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ギンザ・グラフィック・ギャラリー第295回企画展
Ian Anderson/The Designers Republic Come Home
イアン・アンダーソン/ザ・デザイナーズ・リパブリックがトーキョーに帰ってきた。
ギンザ・グラフィック・ギャラリー <ggg>
2011.2.4(金) - 2.28(月)
11:00am - 7:00pm(土曜6:00pm)
日曜・祝日休館
入場無料
〒104-0061 東京都中央区銀座7-7-2 DNP 銀座ビル
※展覧会に合わせて、『gggBooks-96 The Designers Republic』を刊行。
ギャラリー他書店にて販売中。
Link
Ian Anderson(The Designers Republic)
ギンザ・グラフィック・ギャラリー <ggg>
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